今回はデザイン思考のバイブルとも言えるIDEO創始者であるトム・ケリーとデイヴィッド・ケリーが著した『Creative Confidence』をご紹介します。私の人生を変えた本と言っても過言ではないと言える一冊です。
クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法 | デイヴィッド・ケリー, トム・ケリー, 千葉 敏生 |本 | 通販 | Amazon
マーケティングの世界では、データ分析や効果測定、ROIなど“結果”に直結する要素が注目されがちです。しかし、どれほど洗練された分析ツールや手法があったとしても、それらを最大限に活かすためには「新たなアイデアを生み出し、行動に移せる力」、すなわち“クリエイティブな発想と実行力”が不可欠です。トム・ケリーとデイヴィッド・ケリーが著した『Creative Confidence』は、この“発想力”と“行動力”を磨くための実践的なヒントに満ちた一冊です。IDEOの創業者として世界的なイノベーション・コンサルティングファームを牽引する著者たちが、「人は誰しも創造性を備えている」という信念を軸に、私たちの中に眠るクリエイティビティを呼び覚ます具体的なステップを紹介してくれます。
本ブログでは、特に日本のマーケターを対象に、『Creative Confidence』がどのように役立つかを解説していきます。理論だけでなく、実際のマーケティング活動の現場で活かせるアイデアを中心にお伝えし、読後すぐに試したくなる実践例を盛り込みました。「哲学的な啓示ではなく、具体的なノウハウが欲しい」という方にこそおすすめしたい内容です。
1.Creative Confidenceとは何か
『Creative Confidence』の核となる主張は、「創造性は特別な人だけのものではなく、誰もが備えている才能であり、それをいかに引き出すかが重要」というものです。私たちは「自分はクリエイティブじゃない」「アイデアを形にするのはデザイナーやアーティストの仕事だ」という先入観に囚われがちです。しかし、著者たちは「本当は誰もが、“小さい頃から備わっている”創造性を持っているのだ」と強調します。
とはいえ、創造性を発揮しようとするとき、私たちは往々にして自信のなさや失敗への恐怖、周囲の評価への不安などに阻まれます。この恐怖心や思い込みを取り払い、「まずはやってみよう」と行動に移せる状態へと導くのが“Creative Confidence”です。つまり、「できるかどうかわからないけれど、まずは実験してみる」「失敗してもそこから学べばOK」という前向きな姿勢を醸成するマインドセットと言えます。
2.マーケターにとってなぜ重要か
アイデアの枯渇を防ぐ
マーケティングの現場では新商品のコンセプト立案やプロモーション企画など、常に新しいアイデアが求められます。しかし、「競合がすでにやっているから難しそう」「担当上司が好まないかもしれない」などの理由で、自分のアイデアを抑え込んでしまうケースも少なくありません。こうした自己検閲が続くと、クリエイティブな発想が枯渇していきます。
著者たちが言うように、“Creative Confidence”を身につけることは、こうした自己検閲の壁を取り払う手がかりになります。少しでも「面白そう」と思ったアイデアを否定せず、まずは形にしてみる。試作レベルでも良いのでアウトプットを重ねていく。この「アウトプットの量」が、次のアイデアを生み出す土台となるのです。
データドリブンだけでは差別化できない
近年はマーケターが利用できるデータ分析ツールが充実しており、データドリブン・マーケティングが一気に普及しました。しかし、多くの企業が似たようなデータを持ち、似たような分析をしている今、“データ分析だけ”では他社と大差がつけにくいのが現状です。
データを起点にした意思決定は、もちろん有効なやり方です。しかし、そこに新たな視点や大胆な仮説を掛け合わせることで、他社にはない独自性が生まれます。それこそが“Creative Confidence”の出番であり、マーケターのクリエイティビティが顕在化する領域なのです。データ分析の結果に“+αの発想”を加えるためにも、本書が提唱する創造性の伸ばし方は大いに活用できるでしょう。
恐怖心を克服するためのアプローチ
本書には、創造性を抑えつける恐怖心や不安を克服するための具体的なアプローチが多数紹介されています。その中でも特にマーケターにとって有効と思われる3つをピックアップしました。
「小さな実験」で自信を積み重ねる
「何か新しいことを提案して失敗したら評価が下がるのでは?」という不安が、私たちの行動を阻害します。しかし、その不安を払拭するには「大きな成功」をいきなり狙うのではなく、小さな実験を重ねるのが近道です。本書で繰り返し語られる「失敗は当たり前。むしろ早めに小さく失敗して学ぶ」という姿勢を、マーケティング施策にも応用しましょう。
たとえば、SNSキャンペーンのコピーを思い切って短く実験してみる、ランディングページのビジュアルを大胆に差し替えてみる、ユーザーテストを通じてリアルな反応を早期に収集するなど、予算やリソースが許す範囲で試せることは意外と多いものです。数多くの小さな実験を積み重ねるうちに、「試してみたら意外と上手くいった」「上手くいかなかったが得られた学びが次の施策に活かせる」といった成功体験・学習体験を獲得できます。これらが自信に繋がり、さらなる実験的なアイデアを出す土壌となるのです。
「チーム」としての共創
怖さや不安は、一人で抱え込むほど増幅します。マーケティング案件においても、アイデア検討や施策実行を“個人の責任”にしすぎると、新しい試みに二の足を踏んでしまうでしょう。しかし、“Creative Confidence”はチーム全体で育て合うことで大きな効果を発揮します。
本書ではIDEOのチーム事例も数多く取り上げられ、彼らがいかに「集団としてアイデアを育てる」姿勢をもっているかが紹介されています。たとえばブレーンストーミングセッションを通じて「とりあえず否定しない」「どんな意見も受け止める」というマインドを全員が共有すると、アイデアの数も質も格段に向上します。さらに個人では思いつかなかった斬新な発想が生まれ、実行に移す際もサポート体制が整うので、失敗への不安が軽減されるのです。
「観察」と「共感」
特に日本のマーケターにとっては、「顧客インサイトの深掘り」や「ユーザーが本当に求めている価値の再定義」が大きなテーマになっています。データ分析だけでは捉えきれない顧客の潜在ニーズを発見するには、“Creative Confidence”が必要不可欠です。
本書ではデザイン思考の一部として、「ユーザーを観察し、共感する」プロセスの重要性が繰り返し説かれています。たとえば既存の顧客層がどのように商品やサービスに接しているのかを観察し、そこから感じた疑問やインサイトを書き出す。さらに直接ヒアリングを重ねる中で「本当はこんな課題を抱えていたのではないか?」という仮説を立て、そこからアイデアを導き出す。こうしたアプローチは、当たり前のようでいて、実は日々の業務に忙殺されると十分に実践されないことが多いのです。
4.日本のマーケターが活用すべきポイント
小規模なプロトタイプを素早く作る
日本の企業文化では、大規模な会議や稟議を通し、ある程度完成度の高い企画を提出しないと動き出せない風潮があります。しかし、“Creative Confidence”を発揮するには、あえて完成度を下げてでも早く試作品を作り、現場で検証することが不可欠です。
マーケティングにおいては、以下のような「小さなプロトタイプ」を考えてみると良いでしょう。
SNS上での限定的なABテスト、制作会社やデザイナーに頼む前に、社内で簡易版LPを作りユーザーテストを実施、紙芝居プレゼン”などを使って新コンセプトを社内外で試す
こうした小回りの利くプロトタイピングを繰り返すことで、実際の市場投入前に多くのフィードバックを得ることができます。その結果、大きな予算や時間をかけてから「想定外だった……」と後悔するリスクも減り、社内外からも「段階的に検証しているから信頼できる」という評価が得られやすくなります。
ストーリーテリングの強化
多くのマーケティング施策において、最終的には「人の心を動かし、行動を促す」ことがゴールです。そのためには、単に「商品が優れている」という事実だけを並べるのではなく、ストーリーを通じてユーザーの心に訴えかけることが不可欠です。
本書の中で強調される「人間中心の視点」や「共感」をベースにした思考法を取り入れると、ストーリーの組み立て方が変わります。たとえばユーザーがどんな状況で商品を手に取り、どんな気持ちになり、どう変化するのか――そうしたシナリオを具体的に描き、映像のように伝えられると、広告の企画書やキャンペーンページの説得力は格段に増します。IDEOのプロジェクト事例にあるように、人間らしいドラマを取り込むことで、受け手に「これ、私のことだ!」という共感を呼び起こすのです。
チームカルチャーとしての導入
最後に、日本の組織特有の課題である「縦割り」「失敗への厳しさ」「根回し文化」を考えると、“Creative Confidence”を個人レベルだけで実践するには限界があるかもしれません。そこで重要なのは、チームや部署全体で“Creative Confidence”を推進するカルチャーを育むことです。
たとえば週1回でもブレーンストーミングの時間を設定し、「どんなアイデアでも歓迎する」場を作る。その際、役職や専門領域に囚われず、横断的なメンバーを招集してアイデアを出し合う。その結果、普段は出てこないような異業種・異部署の知見が取り入れられ、プロジェクトを新たな方向へ導くきっかけになるかもしれません。
さらに、実験的な施策が失敗しても責任を個人に押し付けず、そこから得られた学びをチーム内で共有し、次の打ち手に活かす。こうしたサイクルが根付いて初めて、“Creative Confidence”は組織全体の持続的なイノベーションを生む原動力となるのです。
5.具体的な読後アクションプラン
『Creative Confidence』を読んだだけで満足してしまうのではなく、実際に行動を起こすことが重要です。以下に簡単なアクションプラン例を挙げますので、ぜひ参考にしてみてください。
- ミニ・ブレスト実施
- 社内の同僚や上司を巻き込み、短時間(30分~1時間)のミニ・ブレーンストーミングを実施します。テーマは「新しいSNSキャンペーンアイデアを考える」「顧客アンケートの新たな設問を考える」など、具体的に設定しましょう。「必ず全員が何かしらのアイデアを出す」「アイデアに対する否定は禁止」というルールを設けることで、“Creative Confidence”の第一歩を体験できます。
- プロトタイピングの導入
- 今週または来月のプロモーション施策で、何かしらのテスト案を作成し、限定的に運用してみましょう。たとえばSNS広告のコピーを2種類作り、配信テストをするだけでも十分に「小さく試す」実践になります。成果が出なくても、それは「仮説を検証できた」という学びになるはずです。
- 顧客観察/インタビューの強化
- データ分析結果だけに頼らず、実際の顧客の声を直接聞く機会を増やします。既存顧客に電話やオンラインでインタビューを行い、「商品をどのようなシーンで使っているか」「そのときの感情や課題は何か」を詳しくヒアリングすることで、新しいインサイトが得られるでしょう。
- 失敗事例共有ミーティング
- 自社の中で、あえて「最近の失敗事例」を共有し合う場を設けます。失敗をオープンに話し、それを糧に何を学んだかを全員で討論する。こうした“失敗に寛容な”文化づくりは、“Creative Confidence”を育むうえで欠かせません。
- チームでの定期振り返り
- 週次や月次で「新しい発見」「試してみたアイデア」「次に挑戦したいこと」を共有する習慣を作り、個人が得た学びをチーム全体に展開しましょう。こうすることで、「あの人のアイデアがきっかけで、こっちは別の角度を思いついた」といった相乗効果が期待できます。
トム・ケリーとデイヴィッド・ケリーは、『Creative Confidence』を通して「創造性は行動によって花開く」と繰り返し語っています。頭の中で「いいアイデアが浮かべばいいな」と考えているだけでは、いつまで経っても前には進めません。試行錯誤を恐れず、むしろ「積極的な失敗」を歓迎することで、マーケターとしての視野は大きく広がります。
日本のマーケターにとっては、ときに「組織の壁」や「失敗を許さない文化」「無難さを優先する意思決定構造」などの障壁が存在するかもしれません。しかし、そこに風穴を開けられるのが“Creative Confidence”です。個人の思い込みを破り、チーム全体で新たな挑戦を後押しし、実験や失敗から多くを学ぶ――そのプロセスの先にこそ、データ分析や既存のフレームワークだけでは得られない“革新的なマーケティング戦略”が生まれる可能性があります。
イノベーションの代名詞であるIDEOの創業者が、その長年にわたる実践と研究の中で体系化してきたノウハウが詰まった本書。「自分には無理だ」と思い込んでいたクリエイティブな領域に勇気を持って踏み込みたいマーケターにとって、これほど頼もしいガイドはないでしょう。ぜひ『Creative Confidence』を手に取り、あなた自身とチームの中に眠る創造性を解放する第一歩を踏み出してみてください。
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