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NIST CSFとは?サイバーセキュリティ対策の国際標準フレームワークを解説

はじめに

近年、企業や組織を狙ったサイバー攻撃が増加しており、適切なセキュリティ対策が求められています。その中で注目されているのが、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が策定した「NISTサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)」です。

NIST CSFは、企業や団体がサイバーセキュリティリスクを管理し、攻撃に備え、インシデント発生時に適切な対応を取るための指針を提供するものです。本記事では、NIST CSFの基本概念や活用方法について詳しく解説します。

1. NIST CSFとは?

NIST CSF(NIST Cybersecurity Framework)は、サイバー攻撃に対するリスク管理を体系化し、組織のセキュリティ対策を強化するためのフレームワークです。

もともとは、アメリカ政府が重要インフラ(電力、通信、金融など)を保護する目的で2014年に策定しましたが、現在では世界中の企業や団体が採用しています。

NIST CSFの目的

  • サイバーセキュリティリスクの管理を体系化
  • 企業のセキュリティ対策を強化
  • 業界や組織の枠を超えた共通のフレームワーク
  • コンプライアンスや規制対応の指針

ゼロトラストセキュリティの重要性

NIST CSFと密接に関連するセキュリティの考え方として、ゼロトラストセキュリティ(Zero Trust Security)があります。

ゼロトラストとは?

ゼロトラストは、「誰も信頼しない」という前提のもと、ネットワークの内外を問わず、すべてのアクセスを継続的に検証・監視するセキュリティモデルです。

従来の境界防御型セキュリティ(企業ネットワークの内部を安全と見なす考え方)では、一度ネットワーク内部に侵入されると、攻撃者が自由に動き回ることが可能でした。しかし、クラウドの普及やリモートワークの増加により、企業ネットワークの境界が曖昧になり、この手法では十分に防御できなくなっています。

ゼロトラストが求められる理由

  • 内部脅威の増加(従業員や取引先のアカウント侵害)
  • リモートワークの拡大(従来のVPNや境界型セキュリティでは不十分)
  • クラウドサービスの普及(企業データが社内外に分散)
  • 高度化するサイバー攻撃(フィッシング、ランサムウェア、APT攻撃など)

ゼロトラストの原則では、以下のような対策が求められます。

  • すべてのアクセスを検証(Verify Every Access)
  • 最小特権アクセス(Least Privilege Access)を適用
  • マイクロセグメンテーションによるアクセス制御
  • リアルタイムでの監視と異常検知

この考え方は、NIST CSFの5つのコア機能と密接に結びついており、企業が包括的なサイバーセキュリティ対策を実施する際の重要な要素となります。

2. NIST CSFの5つのコア機能

NIST CSFは、サイバーセキュリティ対策を以下の**5つのコア機能(Core Functions)**に分類しています。

1. Identify(特定)

組織がどのようなサイバーセキュリティリスクを抱えているかを理解することが重要です。

  • 資産管理(Asset Management): 企業の重要な情報資産(データ、システム、人材)を特定
  • ビジネス環境(Business Environment): 事業運営に影響を与える要素の理解
  • ガバナンス(Governance): セキュリティ方針、法的・規制要件の適用
  • リスク評価(Risk Assessment): 潜在的な脅威や脆弱性の特定
  • サプライチェーンリスク管理(Supply Chain Risk Management): 取引先や外部ベンダーのリスク管理

ゼロトラストの視点: ゼロトラストでは、「何を保護すべきか」を明確にし、資産の可視化とリスク評価を徹底することが重要です。

2. Protect(防御)

サイバー攻撃やデータ漏えいから企業の資産を保護するための施策。

  • アクセス制御(Identity Management & Access Control): ユーザーやデバイスの適切な認証・認可
  • データ保護(Data Security): 情報の暗号化、バックアップの実施
  • 情報保護手順(Protective Technology): ファイアウォール、アンチウイルスソフトの導入
  • 意識向上とトレーニング(Awareness & Training): 社員向けセキュリティ教育
  • プロセス管理(Maintenance): システム更新やパッチ適用の管理

ゼロトラストの視点: ゼロトラストでは、すべてのアクセスを厳密に管理し、最小特権の原則を適用することが求められます。

3. Detect(検知)

サイバー攻撃や異常な活動を早期に検知するための仕組み。

  • 異常活動の監視(Anomalies & Events): 異常なネットワークトラフィックやユーザー行動の分析
  • セキュリティの継続的監視(Security Continuous Monitoring): ログ管理、SIEM(セキュリティ情報管理システム)の活用
  • 脅威インテリジェンス(Detection Processes): 最新のサイバー脅威情報の収集と活用

ゼロトラストの視点: ゼロトラストでは、ネットワーク内外を問わず、すべての通信やアクセスを継続的に監視し、異常を即座に検知することが重要です。

4. Respond(対応)

セキュリティインシデントが発生した際に迅速に対応し、被害を最小限に抑える。

  • 対応計画(Response Planning): 事前に策定したインシデント対応計画の適用
  • インシデント管理(Communications): 影響範囲の特定と関係者への通知
  • 分析(Analysis): 被害状況の分析と根本原因の特定
  • 軽減策(Mitigation): 影響の封じ込めと回復策の実施

ゼロトラストの視点: ゼロトラストでは、異常が検出された場合に自動でアクセス制限を実施するなど、迅速な対応が求められます。

5. Recover(復旧)

インシデント後の復旧プロセスを管理し、通常業務に戻るための対策。

  • 復旧計画(Recovery Planning): 組織の運営を素早く回復するための計画策定
  • 改善活動(Improvements): セキュリティ対策の強化と業務プロセスの見直し
  • コミュニケーション(Communications): 取引先や顧客への報告と信頼回復の取り組み

ゼロトラストの視点: ゼロトラストでは、インシデント後の評価をもとに、さらなる強化策を導入し、継続的にセキュリティを改善することが重要です。

また、復旧計画には、以下のような取り組みが含まれます。

  • データ復旧(Data Recovery): 影響を受けたデータを安全に復元し、業務の継続を支援
  • システムの再構築(System Restoration): 被害を受けたITインフラを復旧し、正常な状態に戻す
  • インシデント後のレビュー(Post-Incident Review): 攻撃の原因を分析し、同様の被害を防ぐための改善策を策定
  • 組織の対応力向上(Resilience Enhancement): 企業全体のセキュリティ意識を高め、次のインシデントに備えたトレーニングを実施

4. まとめ

NIST CSFを活用することで、企業はより強固なサイバーセキュリティ戦略を構築し、リスク管理を強化できます。ゼロトラストの視点も踏まえることで、より高度なセキュリティ対策が可能になります。

組織のセキュリティ対策を見直す際には、NIST CSFを参考にし、ゼロトラストの考え方を取り入れることで、サイバー攻撃への耐性を高めることができます。

    

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